一般社団法人日本脊髄外科学会

本学会について
手術研修制度
English
脊椎脊髄外科専門医委員会
日本脳神経外科学会ホームページNeurospineJSTAGE
最近のお知らせ
各種 ポスター

脊髄腫瘍

脊髄腫瘍

脊髄腫瘍とは脊髄、脊髄神経(神経根)、あるいはそれらを包む硬膜や脊椎から発生する腫瘍の総称です。脊髄腫瘍は発生する場所により、硬膜の外側にできるもの(硬膜外腫瘍)、硬膜の内側で脊髄と硬膜の間にできるもの(硬膜内髄外腫瘍)、脊髄の中に発生するもの(髄内腫瘍)に分類されます。なお、硬膜(脊柱管)の内側と外側の両方に進展するダンベル型と呼ばれるタイプも存在します。ここでは特に脳神経外科が手術顕微鏡を用いて摘出を行う、硬膜内髄外腫瘍、脊髄髄内腫瘍について述べます。
硬膜内髄外腫瘍と脊髄髄内腫瘍をあわせた脊髄腫瘍の発生頻度は10万人あたり1.5人程度で、脳腫瘍の約10分の1程度とされています。稀な疾患でもあり、どこの病院でも安全に手術ができるわけではないので、日本脊髄外科学会指導医の所属する施設、あるいは日本脊髄外科学会認定研修施設での治療をお勧めします。(こちらを参照)

また、当学会で行った脊髄腫瘍に関わる調査の結果をは、こちらを参照してください。(こちらを参照)

I.硬膜内髄外腫瘍

脊髄腫瘍手術の約40%を占め、特に髄膜腫、神経鞘腫と呼ばれる良性腫瘍の発生頻度が高いです。髄膜腫は神経を包む膜(硬膜)から発生し脊髄を圧迫します。神経鞘腫は1本の脊髄神経根から発生することが多い腫瘍であり、脊髄あるいは脊髄神経を圧迫します。症状は痛みやしびれ、手足の脱力、ぎこちなさなどで、症状が強くなると歩行障害、排尿障害が出現することもあります。硬膜内髄外腫瘍は、脊髄との境界が明瞭であることが多く、適切な時期に手術治療を行えば、腫瘍をすべて摘出することができ、神経症状の改善や、悪化予防が期待できます。ただし、症状改善の程度の予測は困難で、手術を行ったとしても、すべての症状が完全に改善しないこともあります。

 

髄膜腫の手術

実際の髄膜腫の症例を示します。72歳の女性です。患者さんは頚部痛、右下肢の脱力と右手足のしびれを主訴に病院を受診されました。MRI検査にて、第一、第二頚椎レベルにある腫瘤が脊髄を圧迫している様子が確認されました(図1)。症状が進行性であり、手術を行いました。腫瘍は脊髄を強く圧迫していましたが、幸い、手術後には症状が速やかに改善しました(図2)。

[図1]髄膜腫のMRI

髄膜腫の患者さん、頚部痛、右下肢の脱力と右上下肢のしびれを訴えて来院されました。頚椎MRIにて腫瘍(髄膜腫、ピンク)が指摘されました。腫瘍は脊髄(肌色)を強く圧迫して症状を呈していたと考えられます。

[図2]髄膜腫の手術所見


髄膜腫の手術

左図(腫瘍摘出前)腫瘍が脊髄を強く圧迫しています。

右図(腫瘍摘出後)腫瘍を全摘出し、脊髄、神経への圧迫を無事に解除することができました。手術後の患者さんの経過は良好です。

II.脊髄髄内腫瘍

脊髄髄内腫瘍には脊髄上衣腫、海綿状血管腫、血管芽腫、神経膠腫、など様々な腫瘍が含まれます。いずれも脊髄そのものの内部に切り込み、腫瘍を摘出する必要があります。一般的に脊髄腫瘍手術の目標は腫瘍を全て摘出し、かつ,神経機能を温存することです。しかし,脊髄は脳に比べサイズが小さく,さらにその中に多くの重要な神経線維が走行しています。
そのため、脊髄内部の腫瘍を摘出する操作は常に重篤な神経症状出現のリスクがあり、脊髄髄内腫瘍摘出手術の難易度は非常に高くなります。

 

脊髄上衣腫(図3)

 

[図3]脊髄上衣腫のMRI

脊髄髄内腫瘍(上衣腫)の患者さん、頚部痛、両下肢の脱力としびれ、排尿困難感を訴えて来院されました。胸髄MRIにて腫瘍(上衣腫、紫)が指摘されました。腫瘍は脊髄(肌色)内部に存在し症状を呈していたと考えられます。
脊髄上衣腫は脊髄髄内腫瘍の約40%で、30歳代から50歳代に多く、男女差はありません。症状は他の脊髄腫瘍と同様で、頚部痛や背部痛、四肢のしびれ、脱力やぎこちなさ、そして歩行障害と排尿障害です。多くは良性腫瘍であり、手術による摘出で症状改善、増悪予防が期待できます。

脊髄髄内腫瘍のうち最も頻度の多い脊髄上衣腫を例に、脊髄髄内腫瘍摘出手術の実際を提示します。本症例のMRIでは、脊髄内部に腫瘍を認め、腫瘍の形状は不均一で、内部に一部空洞を伴っていました(図3)。手術では背中を縦に切開し、脊髄を覆う椎弓をはずし、硬膜を切開すると、脊髄表面が確認できますが(図4-①)、内部にある腫瘍はこの時点では観察されません。脊髄の背側正中を慎重に切開し、脊髄を傷つけないようにして脊髄髄内に入ります(図4-②)。
脊髄内部の腫瘍に到達し、脊髄を傷つけないように丁寧に剥離して腫瘍を摘出します(図4-③)。この症例では無事に腫瘍を摘出することができ、術後症状も速やかに改善し(図4-④)、下肢のしびれが残りましたが、術後1ヶ月後に職場復帰されています。

脊髄腫瘍摘出手術の際,神経機能の確実な温存を担保するために日本脊髄外科認定研修施設では、術中神経モニタリングを活用しています。昔の手術では、脊髄腫瘍摘出術後に麻酔をさましてみるまで、患者さんの手足が動くのかどうか、確認できませんでした。しかし近年は、手術中に神経モニタリングを活用することにより、手術中であっても両手足の動きや感覚機能の大まかな様子を知ることができます。腫瘍摘出と神経機能温存の両立を目指し、神経モニタリングを用いた手術治療による治療成績向上のための努力が続けられています。

[図4]脊髄上衣腫の摘出手術

上衣腫の摘出手術
①腫瘍摘出前の脊髄表面の様子:腫瘍が内部から脊髄を強く圧迫し、脊髄が腫れ上がっています。
②脊髄の正中を丁寧に剥離し、脊髄内部に分け入ります。一部脊髄内部の腫瘍が見えてきています。
③脊髄と腫瘍の境界を丁寧に剥離し、腫瘍を摘出していきいます。
④脊髄腫瘍摘出後:腫瘍が無事に全摘出されました。手術後の患者さんの経過は良好です。

 

海綿状血管腫(図5)

脊髄内に出血をきたし、突然の痛み、しびれ、運動麻痺で発症することが多い腫瘍です。
出血後に再出血をきたすリスクがあることから、発症後2週間程度の時期に摘出手術を行う場合が多いです。症状が軽い場合や、偶然に見つかった脊髄腫瘍で海綿状血管腫が疑われる場合は、腫瘍の場所や大きさなどを勘案し手術を行うかどうかを決定します。主治医の先生や、経験の多い先生と、十分に相談することが勧められます。

海綿状血管腫の患者さん、突然の頚部痛、四肢の脱力としびれで発症。救急搬送されました。頚椎MRIにて脊髄(肌色)内部に腫瘍(血管腫、青)とその周囲に出血(ピンク)が指摘されました。手術では脊髄奥に存在する腫瘍を無事に摘出しました。

 

脊髄血管芽腫(図6)

脊髄が圧迫され、やはり痛み、しびれ、運動麻痺や排尿障害で発症します。手術では他の脊髄腫瘍と同様に脊髄内に入り摘出します。出血しやすい腫瘍ため、手術中の出血コントロールに注意が必要です。なお、頻度は多くないものの、常染色体優性遺伝疾患であるフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病に関連して血管芽腫が発生することがあります。腫瘍が脳脊髄に多発する場合や、他の臓器の腫瘍を伴う場合は専門的な検査が必要です。

血管芽腫の患者さん、四肢の脱力としびれ、排尿障害で発症し、来院されました。頚椎MRIにて脊髄(肌色)内部に腫瘍(血管芽腫、赤)とその周囲に空洞(青)が指摘されました。
手術では脊髄に食い込むように存在する腫瘍を無事に摘出しました。

 

神経膠腫(グリオーマ)(図7)

多くの脊髄髄内腫瘍は良性ですが、グリオーマには悪性のものが含まれます。手術で摘出した腫瘍組織の病理所見から、グレード1(良性)からグレード4(悪性)に分類されます。
その組織分類により治療法や予後が異なります。この腫瘍は周囲脊髄と脊髄腫瘍の境界が不明瞭になりがちで、手術が難しいとされています。治療方針について、主治医の先生や、経験の多い先生と十分に相談することが勧められます。

神経膠腫(グリオーマ)の患者さん、ゆっくり進行する右足のしびれで発症しました。腰椎MRIにて脊髄(肌色)内部に腫瘍(青)が指摘されました。手術では脊髄奥に存在する腫瘍を部分的に摘出しました。

【執筆担当】 東北医科薬科大学 脳神経外科 遠藤俊毅

TOPページへ

「症状のある身体の部位から探す」

Page Top