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特発性脊髄硬膜外血腫

特発性脊髄硬膜外血腫

脊髄硬膜外血腫とは、脊柱管内に出血した血の塊(血腫)が脊髄を圧迫することで痛みや四肢のしびれ、麻痺などを起こす病気です。特発性とは、原因がはっきりしないものを指す医学用語であり、特発性脊髄硬膜外血腫とは突然の頚部痛や背部痛に続き、四肢の脱力としびれ、排尿障害などを起こす原因不明の病気です。痛みは、突然の激痛(これまでに経験されたことのない痛み)で、頻度の高い頚椎の硬膜外血腫では後頚部から肩、上腕へ放散することを多く経験します。症状は急速に進行することが多く、早期の救急病院受診が必要です。また、稀ですが、痛みが軽度で、身体の片方の麻痺だけを認める場合もあり、脳梗塞との区別が難しい場合もあり、注意が必要です。
発生率は10万人あたり0.1人と稀ですが、症状と神経症状が重篤なため注意が必要です。患者さんの男女比は3:2と男性にやや多く、年齢は 15~20 歳、60~70 歳代にピークがあります。好発部位は下位頚椎から上位胸椎とされています。
原因がはっきりしない特発性のものでは、発症の関連要因として血液凝固異常(抗血栓薬内服,出血性疾患),高血圧や軽微な外傷が指摘されています。なお、妊娠分娩,運動,咳込み,重いものを持つなど、腹圧をかける行為による急激な静脈圧の上昇の関与も提唱され ていますが、断定には至っていません。過去の論文報告では、約半数が原因不明とされており、実際の臨床現場でも誘因が特定されない症例が少なくありません。
診断には体幹部のCTや脊髄MRIが有用です。なお、類似の症状や経過を呈する疾患(脳梗塞、椎骨動脈解離、急性椎間板ヘルニア,脊髄梗塞,大動脈解離,急性心筋梗塞など)との鑑別が大切です。多くの患者さんで緊急手術治療の適応となりますが、症状が落ち着いている場合など手術治療を行わないこともあります。
手術を行う場合、血腫がある部分の背中の皮膚を切り、椎弓と呼ばれる背部の骨の一部を削り、その奥にある血腫を取り除きます。出血源は脊髄硬膜外静脈叢と呼ばれる部分が多いとされています。この部分は血管の壁が弱く出血しやすいとされており、手術顕微鏡をもちいて神経を守りながら慎重に止血し、脊髄の圧迫を解除します。術後は、リハビリテーションを行います。
手術後の神経症状回復には個人差があります。一般的には早期に手術を行うことが、血腫による脊髄の圧迫解除が神経症状の改善につながることが多いとされています。しかし、手術までの時間、手術前の神経症状の重症度、脊髄硬膜外血腫の量などが患者さんの予後に複合的に関連するため一概には言えません。手術適応とその時期、あるいはその方法について、担当医の先生と相談することが勧められますが、発症してしまった現場では、早急な判断が必要な場合があります。

 

【図 1】特発性脊髄硬膜外血腫摘出術の様子

頚部の激痛、その後急速に進行する四肢の運動麻痺としびれを呈して救急外来を受診した患者さん。頚椎 MRI にて脊髄硬膜外血腫(矢印)と診断した。脊髄硬膜外血腫(赤色)により脊髄(黄色)が圧迫されている。
その後、緊急手術により血腫側の椎弓を切除し、血腫を摘出した。

【図 2】特発性脊髄硬膜外血腫摘出術の様子

上図:患者さん頚部背側の皮膚を縦に切り、手前にある頚椎椎弓を半分のみ骨削除したところ。すぐに硬膜外血腫の本体(*)に遭遇。手術顕微鏡をもちいて迅速に丁寧に血腫の除去と止血を行った。
下図、血腫摘出および止血後の脊髄硬膜の様子(矢印)血腫による圧迫がとれ正常の位置に復している。

【執筆担当】 東北医科薬科大学 脳神経外科 遠藤俊毅

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