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脊髄空洞症

脊髄空洞症

脳から出た脊髄は全身に向かう神経が集まった束です。内部には神経組織が密集しており、すき間といえばとても細い管が脊髄中心付近を縦に通っているだけです。この管は中心管とよばれ、中は髄液で満たされています。この管は細く直径は1-2ミリのため、MRIでもほとんど見えません。
脊髄空洞症とは、脊髄内に異常な空洞ができて髄液で満たされ、脊髄を内側から押し広げるように圧迫して症状を引き起こす疾患です。空洞は中心管が異常に拡張して起きるほか、脊髄組織内が裂けるようにして、中心管とは別の場所にできる場合もあります。双方の間で発生原因や症状、画像検査結果や治療方針に大きな違いはなく、現実的にも両者の区別は困難なので、おおむね同じものとして扱われます。脊髄空洞症はさまざまな原因で発生しますが、その多くは何か他の疾患に合併して起きます。代表的なものは脳や脊髄の先天奇形(キアリ奇形など)、脊髄外傷、癒着性くも膜炎、脊髄腫瘍などです。

脊髄空洞症の症状は、解離性感覚障害と宙釣り型温痛覚障害が特徴的です。脊髄内では運動神経と感覚神経などが機能別にまとまって決まった場所を走行しますが、感覚神経はさらに温痛覚神経(温度と痛みを感じる)と深部覚神経(振動や重みなどを感じる)に分かれて独自のルートを走ります。脊髄空洞症は脊髄中心付近に発生するため、脊髄内中心を横切るように通る温痛覚神経が障害されやすく、深部感覚は比較的影響されにくくなります。このように、感覚障害でも温痛覚のみが低下して深部感覚が保たれている現象を解離性感覚障害と呼び、脊髄空洞症の典型的な症状です。
脊髄空洞症は頚髄や上側の胸髄に多く、頚髄に生じると肩から腕、手指にかけて(解離性)感覚障害が起こりますが、このような状態を宙釣り型(もしくはショール型、ジャケット型)温痛覚障害とよぶことがあります。この障害は初期では片側のみにみられることもあります。温痛覚が鈍くなると手や腕に熱いものが触れても気づかず、いつの間にかやけどを負うこともあります。もし空洞が拡大すれば他の神経も障害され、障害部位に応じた範囲(ほとんどが腕や手)の筋力低下や筋委縮があらわれます。もし空洞が延髄まで及ぶと、嚥下障害や顔の感覚障害がみられることもあります。

診断としては、脊髄MRI画像が最も有用かつ必須の検査です。先述の通り、脊髄空洞症は他の疾患が原因となって二次的に起っていることも多いため、その他の脳・脊髄疾患を広く検査することも必要です。脊髄空洞症はしばしば脊髄腫瘍によって起こされますが、空洞症が大きく、とても目立つのに、原因となる小さな腫瘍を画像で見つけにくいことがあります。そのような時は造影剤を用いたMRIを行うと発見しやすくなります。

無症状であれば治療の必要はなく、定期的な画像検査で経過を追うことで十分です。もし空洞症に伴う症状があれば治療を検討しますが、根本治療は手術しかありません。ただ、空洞症の原因となる別の疾患があれば、その治療で空洞が自然に退縮することが多いため、まずは原因となる疾患の治療を優先します。
空洞症への直接の手術は、他に原因疾患がない場合や、原因を治療しても空洞が改善せずに症状が強く残っている場合に検討されます。空洞症の手術は空洞-くも膜下腔シャント(短絡、つまり抜け道の意)手術ともよばれ、全身麻酔で行います。空洞が存在する高位の脊椎を後方から一部開いて硬膜を切開し、脊髄の表面に穴をあけて空洞内に細いシリコンチューブ(SSシャント)を入れます。チューブの一端は空洞内、他端はくも膜下腔とよばれる脊髄表面の髄液層に固定します。こうすることで空洞内の水分を脊髄周囲のくも膜下腔に排液できて空洞が縮小することを期待しています。
これらの手術で空洞が画像から完全に消失するとは限りません。また、シャント手術がうまくいっても症状が直ちに変化しないこともあります。その際の治療は、服薬治療や理学療法による対症療法が中心になります。尚、脳に水頭症を伴っていた場合、脳室に対するシャント手術が別に必要になることもあります。

上位胸椎での脊髄空洞症:60歳代男性、両上肢しびれ感。両上肢と腋(わき)の下のしびれ感で受診。宙づり型の解離型温痛覚障害。初診時MRI(左)では上位胸椎レベルの脊髄内に空洞症を認めた(矢印)。空洞症を起こした脊髄の近くではくも膜のう胞(三角矢頭)が認められ、これが空洞症の原因と考えられた。手術でくも膜のう胞を除去し、脊髄および空洞症には処置を行わなかった。手術後3か月MRI(右)では空洞症が自然に消失した。感覚障害も改善した。(脊髄脊椎ジャーナル28(8)より)

【執筆担当】 一宮病院 脳神経外科 安田宗義

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