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腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板は、背骨(せぼね)に加わる力を吸収するクッションの役割を担っています。椎間板は、ひとつひとつの背骨の間に存在し、内部にはゼリー状の髄核と呼ばれる弾力に富んだ組織があり、その周囲は強固な線維輪により包まれています。この線維輪の後方や側方部分が何らかの原因により膨隆または断裂し、後方に飛び出したものが神経を刺激することがあり、これを椎間板ヘルニアと呼びます(図1)。

第4腰椎(L4)と第5腰椎(L5)の椎間板が右後方へ突出している。(*)は、椎間板ヘルニアです。ヘルニアによって神経が圧迫されています(矢印)。

人口の約1%が罹患し、人口10万人あたり50人程が手術を受けるとの報告があります。椎間板ヘルニアの主な症状は、腰背部(こし)、臀部(おしり)、下肢(あし)のしびれや痛みなどです(ヘルニアの場所によって痛む部位が変わってきます)が、症状が進むと、足に力が入らない、つまずきやすくなるなどの運動障害が起こります。また、腰椎部の神経の束(馬の尻尾のように見えることから、“馬尾”と呼ばれます)が、ヘルニアによって強く圧迫されると、残尿感や便が出にくいなどの症状(膀胱直腸障害)が出ることもあります。痛みやしびれ感の症状は、前屈みで強くなることが特徴で、症状が強い人は、椅子に座ることも難しくなることがあります。診察では、仰向けに寝て膝を伸ばした状態で片方ずつ足を持ち上げてゆくと、下肢に走る痛みが誘発されることがあります(高齢の方ではこの痛みが出にくい傾向があります)。

検査は、MRIでヘルニアの部位や程度を確認します。また、CTやX線検査では、骨の形状や不安定性(ぐらつき)などを評価します。椎間板ヘルニアの治療は、ヘルニアの形、ヘルニアが出ている部位、骨の形や症状によって治療法が変わるので、治療するにあたっては、当学会会員のような脊椎・脊髄の診療に経験の深い医師による判断が必要です。腰椎椎間板ヘルニアは、自然治癒も多く、保存治療(安静療養、鎮痛薬などの薬物治療、理学療法、注射療法など)が原則です。しかし、既に運動障害が出ているもの、保存治療でも痛みが持続するもの、尿や便が出にくい場合には手術が選択されます。

手術は、飛び出したヘルニアを摘出し、神経への圧迫を取り除きますが、手術用顕微鏡や内視鏡を用いて、負担の少ない手術が行われます(図2)。また、椎間板ヘルニアに対する新しい治療法として、椎間板内酵素注入療法を保険診療で行うことが可能になり、この方法が有効な場合もあります。これは、椎間板ヘルニアを縮小させる薬を椎間板内に直接注射します(図3)。この薬剤は髄核の保水成分(プロテオグリカン)を分解する酵素で、髄核の水分を抑えることで、ヘルニアによる神経への圧迫を軽減し、痛みや痺れなどの症状を軽くすることを目的とした治療法です。

手術顕微鏡を用いて見た椎間板ヘルニアの実際。神経(*)が椎間板ヘルニア(白矢印)で圧迫を受けていることがわかります。この椎間板ヘルニアを慎重に除去します。

椎間板酵素注入療法の実際。(A)L4/5椎間板ヘルニアに対して、薬剤を注入する針を穿刺した画像。(B) 実際に針を穿刺している様子。(C)実際に薬剤を注入している様子。

【執筆担当】 産業医科大学 脳神経外科 北川雄大
脳神経センター大田記念病院 脊椎脊髄外科 大隣辰哉

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