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頭蓋頚椎移行部病変(環軸椎亜脱臼など)

頭蓋頚椎移行部病変とは

ヒトの頭部は常に上下左右に複雑に動きます。特に左右に回す動き(回旋)は大きく、約180度の範囲で動くことができます(図1)。この頭部と胴体を繋ぐ部分が首にあたりますが、頭部と首のつなぎ目を頭蓋頚椎移行部と呼びます(図2)。この部分は複雑に関節が組み合わさっており、テープのような骨と骨の間を繋ぐ靱帯が、頭蓋骨と頚椎の間を安定化させています(図3)。頭蓋頚椎移行部には延髄や脊髄、小脳といった神経組織や、脳に血液を送る椎骨動脈などの重要な神経・血管が存在します。特に延髄や上位頚髄は、脳から手や足に至る神経伝導路の通り道であるばかりでなく、呼吸や血圧の維持といった生命に直接かかわる重要な機能を担っています。

(図1)

(図2)

(図3)

頭蓋頚椎移行部は、骨と骨との間の関節がずれる(脱臼)などの不安定性を来しやすく(図4)、また、神経組織が障害を受けると四肢麻痺や呼吸障害などの重大な症状を生じることがあります。こういった異常を起こす原因は、外傷、関節リウマチなどの炎症性疾患、腫瘍、血管障害、先天性疾患など様々であり、その診断・治療には、脳・脊髄・脊椎などに対する総合的な知識や経験が重要となります。

(図4)

症状

最も多い初期症状は、後頭部・後頚部痛です。特に不安定性を伴う場合は、頚部を動かした際に痛みが増強します。病状が進行すると手足のしびれ、麻痺を生じますが、初期には上肢の異常感覚や手の細かな運動の障害(巧緻運動障害)から始まることが多いです。小脳や脳幹部の障害が加わると、めまい、ふらつき、呼吸障害(睡眠時無呼吸)などを来すことがあります。一般的に頭蓋頚椎移行部病変の初期の症状は、軽微であったり、もしくは多様・複雑で変動したりと、診断が難しい部位です。

検査法

X線撮影・脊髄造影・CTscan・MRIなどが行われます。X線撮影やCTでは、骨の構造の診断に優れています。MRIは脊髄・脳幹・小脳といった神経組織や靱帯などの軟部組織の診断に優れます。診断上、頚部を動かした状態での検査(機能撮影)も重要です。

治療法

頚部の安静を保つことが基本であり、頚椎カラーも用いられます。また、関節のずれを矯正するために、入院して頭部の牽引を行うこともあります。痛みに対しては鎮痛剤が使用されますが、頭蓋頚椎移行部病変に対する根本的な薬物治療法はありません。症状が重篤となった場合や、症状が進行する場合には手術治療が必要となります。

手術法

大きく分けて、悪い部分や神経を圧迫している部分を切り取る手術(減圧術)と、関節のずれを矯正して固定する手術(固定術)があります。減圧術は、病変の部位により首の後ろや横から進入する場合や、口の中(経口手術)から進入する場合がありますが(図5)、手術用顕微鏡下に慎重に行なわれます。固定術には様々な方法がありますが、最近では初期から強固な固定を得るために、首の後ろから骨釘(ボルト)を打ち込み固定する方法が多く用いられます(図6)。この際、釘を安全・正確に打ち込むために、手術用ナビゲーション(カーナビゲーションと似た原理)を用いることもあります。最終的に強固な骨癒合を得るためには、腸骨(骨盤の骨)などからの自家骨を移植する事が多いです。

(図5)

(図6)

術後経過

最近では術直後から強固な固定が得られるため、一般的に術後に長期間の臥床は不要であり、術後1-2日で歩行が許可されます。ただし、固定部が安定するまでの2ヶ月程度頚椎カラーの装着することが多いです。

合併症

手術の技術の進歩に伴い合併症の頻度は減少していますが、頭蓋頚椎移行部には重要な神経や血管が含まれるため、これらの重要な組織が障害されると、手足の麻痺や「しびれ」、呼吸障害、嚥下(飲み込み)障害などが悪化したり、新たに加わったりする可能性があります。また、脳や脊髄を包む膜(硬膜)に穴があいた場合は、髄液漏(髄液の漏れ)を生じてしまい、術後の臥床期間が長期化する場合や、髄膜炎の原因にもなり得ます。また、固定のための骨釘(ボルト)が、脳へ行く動脈を損傷して脳損傷を生じたとの報告もあります。頭蓋頚椎移行部の手術は一般的に難しく、一度の手術で減圧や固定が得られなかった場合、再歳手術が必要となることもあります。その他、手術に共通する合併症として感染や術後出血等があります。感染が固定のための金属に及ぶと、金属を取り除いた後に感染への治療を行わなければならない場合もあります。いずれの場合も障害の程度によっては、生命に関わる危険を含んでいます。
また、固定術を行った場合には、少なからず頭部の動きが制限されます。典型的な環椎-軸椎 (第1-2頚椎) 間で固定した場合は首における頭部の回旋運動は半減するため、真後ろを見る際に不便を感じます。

最後に

頭蓋頚椎移行部は、神経外科・脊椎脊髄外科領域でも特殊な部位であり、診断・治療も容易ではなく脳・脊髄・脊椎などに対する総合的な知識や経験が重要となります。頭蓋頚椎移行部の異常を心配される方は、脳神経外科の専門医を受診することをお勧めします。

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